TEL 042-333-0009

時 間 午前9~12時、午後4~7時
休診日 火曜日・祝日

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手術

手術

当院では皮膚に出来た数mmのできものの切除から肝臓腫瘍切除や椎間板ヘルニアの手術のような特殊な手術まで幅広い外科手術に対応しております。

手術計画について

手術に当たっては動物の状態を細かく調べて綿密な手術計画を立てて手術に臨みます。時には術前にCT検査やMRI検査を受けてもらうこともあります。CT検査によって手術計画に不確定な部分が出てきた場合は、術前に手術方針について動物のご家族と話し合いを持つこともあります。
練習もしないで運動競技会に出場したり受験勉強をしないで入学試験に臨むのが無謀なように手術計画を立てずに手術に臨むのも無謀です。手術が成功するかしないかはほとんどの場合、手術が始まる前にほぼ決まっています。手術が始まれば事前に立てておいた手術計画に沿って迅速に確実に手術を進めていきます。手術計画を綿密に立てておくことで手術の成功率があがり、麻酔時間も短くなって動物の負担も軽くなります。

手術に使用するシングルユースの器材について

当院では手術に使う術衣、手術用マスク、手術用帽子、術布、縫合糸、手術用グローブ、気管挿管に用いる気管チューブまで全て1回使用で使い捨てにしています。手術用グローブはアレルギーの元になるラテックスを使用していないグローブを採用するなど細かいところまでこだわりを持っています。ここまでこだわっている動物病院はほとんどないと思いますが、ヒトの手術では当たり前のことです。動物だからヒトよりも衛生基準が緩くても良いなどということはありません。シングルユースの器材を採用して使い捨てにすることで細菌感染の機会を減らすことができます。無用な細菌感染を減らせば動物の負担は軽くなりますし、術後の回復も早くなります。

麻酔用鎮痛剤の使用

麻酔に一般的に用いられる吸入麻酔薬には鎮痛効果はほとんどありません。眠っているから痛みを感じないだけです。麻酔用鎮痛剤を吸入麻酔薬に併用することで痛みを感じにくくなって吸入麻酔薬の濃度を下げることが可能なので状態の悪い動物にも比較的安全に麻酔がかけられるようになります。麻酔用鎮痛剤の使用によって吸入麻酔薬の濃度が下がって麻酔の安全性があがるだけでなく、痛みの少ない手術を行うことで動物の福祉にも適います。基本的には吸入麻酔薬を用いて麻酔をかけるすべての手術において麻酔用鎮痛剤の使用をお勧めしています。
当院ではフェンタニルという薬を麻酔用鎮痛剤として採用しています。フェンタニルには強力な鎮痛効果があり、その鎮痛効果はモルヒネのおよそ100倍と言われています。

麻酔科について

局所麻酔薬の使用

当院では適用となる動物については局所麻酔薬を用いて外科手術を行っています。
局所麻酔とは意識の低下を伴わずに痛みをコントロールする麻酔方法で、その方法には局所浸潤麻酔、硬膜外麻酔、神経ブロックなどがあります。局所浸潤麻酔は小切開などの小さな手術に用いられ、硬膜外麻酔や神経ブロックなどは目的の領域の痛みをコントロールする際に用いられます。局所麻酔では麻酔用鎮痛薬よりもさらに強力に痛みを抑えることが可能です。副作用を回避して効果的に硬膜外麻酔や神経ブロックを行うにはやや特殊な知識と技術が必要になります。

麻酔科について


膀胱結石の手術前に硬膜外麻酔を行っています。
硬膜外麻酔によって手術の痛みが減るので、より低濃度の吸入麻酔薬での麻酔管理が可能になります。
麻酔用鎮痛剤と硬膜外麻酔の併用によって吸入麻酔薬の使用量が減少するだけでなく、術後の痛みも減って回復も早くなります。

当院の手術の流れ

当院では手術を行うにあたり、動物への負担ができる限り少なくなるような手術法や麻酔法をご提案しています。また、手術前には手術の内容やリスク、術後の展望などについて(データがある場合は公平なデータを元に)なるべく分かりやすく説明をするように心掛けています。出来る限りご家族の希望に沿った形で手術をするようにしていますが、どうしても希望に沿えないケースもあります。それでもご家族に出来るだけ納得して手術を受けて頂けるように話し合いをきちんとします。ご希望や疑問などがありましたら遠慮なくご相談ください。

STEP1 術前検査
身体検査や血液検査、レントゲン検査などにより動物の現在の状態を出来る限り把握します。動物の状態によって麻酔のプログラムを考えています。
STEP2 麻酔前の身体検査と記録開始
体重や心拍数などの身体検査を行ってどのような麻酔計画で麻酔を行っていくのか考えます。同時に術前の動物情報を麻酔記録簿に記入して麻酔記録が始まります。
STEP3 鎮静剤などの投与
静脈カテーテルを設置し、麻酔導入に向けて鎮静剤などの投与を行います。動物の状態や手術内容によってはこの時点から麻酔鎮痛剤を使うこともあります。
STEP4 麻酔導入
動物の状態に合った導入薬を用いて麻酔に導入します。気管挿管し吸入麻酔薬と麻酔用鎮痛薬などによって麻酔管理を行います。硬膜外麻酔などの局所麻酔を行います。
STEP5 手術
手術は事前に立てていた手術計画に沿って行われます。麻酔中は心拍数、血圧、血中酸素飽和濃度、呼気中二酸化炭素濃度などをモニターします。麻酔前は元気そうにしていた病気の動物に麻酔を掛けたら血圧が急に下がったというような状況には比較的多く遭遇します。麻酔中の動物の状態に応じて必要な投薬や処置が行われます。
STEP6 術後管理
麻酔事故は術後にも発生します。麻酔用鎮痛薬の流量を落とし吸入麻酔薬を切っても、動物が自力で頭を上げたり立ち上がれるようになるまでは決して目を離しません。特にフレンチブルドッグやパグ、シーズーなどの短頭犬種やペルシャなどの鼻がつぶれた猫種は注意が必要です。喉頭という気管の出入り口周囲の筋肉は、頭が覚醒していてもその反応が戻っていないことがあります。舌や口腔粘膜の色を見ながら酸素交換が出来ているのか注意深く観察します。
術後も引き続き麻酔用鎮痛薬の点滴をします。3日間効果の持続する痛み止めのシールを貼ることもあります。
ほとんどの場合、ご家族の希望があればその日のうちに面会が可能です。

当院で行っている手術

当院では皮膚の小切開手術から以下にあげるような専門的な知識や技術が必要な手術まで幅広く手術を行っています。麻酔についての勉強やトレーニングも日々行っていますので状態の悪い動物についても比較的安全に手術を行えるような準備がされています。

門脈体循環シャントの動物に対する外科的シャント血管結紮術

門脈体循環シャントとは消化管から肝臓へ向かう門脈という血管から、本来はないはずの大静脈へのバイパス血管の存在によって様々な症状が出る病態を指します。

門脈体循環シャントでは、消化管で発生するアンモニアやエンドトキシンなどの本来は肝臓で解毒されるような毒物が肝臓を迂回して全身循環に流入してしまうので神経系、消化器系、泌尿器系などに異常を来たします。成長因子なども肝臓を迂回するために肝臓の成長も悪くなります。

症状

ふらつき、旋回、けいれん発作などの神経症状、嘔吐、よだれなどの消化器症状、膀胱結石(尿酸アンモニウム結石)などの症状が1歳未満の若齢で発現することが多いのですが、シャント血管のタイプによっては比較的成長が進んでから見つかることもあります。

診断

血液検査や超音波検査などによって門脈体循環シャントを疑いますが、最終的にはCT検査によってシャント血管の存在と位置を確認して診断します。


門脈体循環シャントのワンちゃんのCT検査画像です。
ワンちゃんの背中側から見た感じになっています。
シャント血管は門脈から胃の入り口を巻くようにして後大静脈に繋がっていました。
青:静脈、紫:門脈、赤:動脈、緑:シャント血管

治療

治療は内科療法と外科療法がありますが、シャント血管結紮術が第1選択となります。内科療法の目的は症状を軽くすることにあって症状が消えることは通常ありません。
シャント血管の閉鎖によって門脈圧がどのくらい上がるのかを観血的に測定し、問題がなければ完全結紮、問題があればシャント血管がやや細くなるように縛って再手術で完全結紮を目指します。
門脈体循環シャントの動物に対する外科的シャント血管結紮術は、手術適応の可否や手術を行う時期などにも難しい判断が求められる手術で、門脈体循環シャントの病態と結紮術の術式に関する深い理解が必要な手術です。


術中に行った門脈造影検査画像です。
腸間膜の血管にカテーテルを留置して造影と門脈圧の測定を行います。
当院では、門脈体循環シャントの動物に対する外科的シャント血管結紮術には門脈圧の測定が必須と考えています。

軟部組織肉腫の外科的切除

軟部組織肉腫とは線維肉腫・末梢神経鞘腫・血管周皮腫などの生物学的挙動が類似する軟部組織から発生した肉腫の総称です。

軟部組織肉腫の治療には外科療法、放射線療法がありますが、第1選択は外科治療です。外科療法を行う際に、最小サージカルマージン(腫瘍から切除縁までの余白)として水平方向2-3cm、深部方向筋膜1枚が推奨されていますが、腫瘍の発生部位や浸潤度、組織学的グレードなどを基にしてそれぞれの動物ごとにサージカルマージンを判断します。
腫瘍の発生場所などによって完全切除がなされなかった場合に放射線治療が行われます。

軟部組織肉腫は、外科療法により完全切除が達成された場合には、根治が狙える数少ない悪性腫瘍です。
外科手術は1回目が勝負です。上記のようなサージカルマージンを取らずに外科手術を行うと局所での再発率は上がります。再手術では1回目よりもさらに大きな拡大切除が必要になりますし、腫瘍の生物学的な性質や周囲組織の状況などから2回目、3回目と回数が増えるごとに完全切除の成功率は下がり、再発率は上がります。よって1回目の外科手術で完全切除が狙えるような綿密な手術計画の立案と手術計画を実行する能力が必要です。手術計画の立案に必要であればCT検査などの画像検査を行ってご家族とよく相談のうえ手術計画を立てています。
(CT検査を行う際は画像診断センターを紹介しています)

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軟部組織肉腫(L.レトリバー)の手術中の画像です。腫瘍は体幹皮筋より外側にあって底部固着は無かったので腫瘍から十分な距離を取って体幹皮筋ごと切除しました。

胸腰部椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアには、脊柱管側の(脊髄がある方の)線維輪が切れて内側にある髄核が脊髄側に突出して脊髄神経を圧迫するHansenⅠ型と、脊髄側の線維輪が変性・肥厚(厚くなったり)して脊髄神経を圧迫するHansenⅡ型があります。
診断:脊髄反射などの神経学的な検査、レントゲン検査、MRI検査などが行われます。

治療:治療には保存療法と外科療法があります。外科療法が選択された場合、そのほとんどで片側椎弓切除術(hemilaminectomy)が行われます。片側椎弓切除術を行うには術前から術後までの動物に対する神経学的な評価、術中の外科手術実行能力、リハビリに対する知識が必要になっていてやや特殊な手術になります。

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胸腰部椎間板ヘルニアの術中の画像です。
脊髄を矢印で示しました。脱出した椎間物質によって脊髄が障害されて一部変色しています(円で囲った部分)

頸部椎間板ヘルニア

小型犬では頭側頸椎(C2-3、C3-4)における発症が多く、大型犬では尾側頸椎(C5-6、C6-7)における発症が多くなっています。
ただし、HansenⅡ型椎間板ヘルニアでは、多くの椎間に椎間板突出を認めることもあります。

診断

頸部椎間板ヘルニアでは、画像診断によりヘルニア罹患部位などを含めた確定的な診断を得ることが可能です。全ての症例で麻酔下での検査が必要とされ、現在ではコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像撮影(MRI)といった断層画像による診断が主流となっています。

治療

治療には保存療法と外科手術があります。

外科手術を行う基準

1:症状は疼痛のみだが、画像診断にて中程度~重度の脊髄圧迫がある場合
2:ケージレストによる管理が困難な場合
3:内服薬に反応するが、休薬により再発する場合
4:神経学的な異常(ふらつき・四肢の不全麻痺や完全麻痺)がある場合

脱出した椎間板物質や突出した線維輪の除去と椎間板によって圧迫された脊髄の減圧を目的として外科手術が行われます。
ほとんどの場合、腹側減圧術(ベントラルスロット)が行われます。

ベントラルスロットによる腹側減圧術を行うには、術前から術後までの動物に対する神経学的な評価、頸部の血管や神経などについての解剖学的な知識や術式についての理解、リハビリに対する知識が必要になっていてやや特殊な手術になります。

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ベントラルスロット法にて脱出した椎間板物質を除去した後
中央に見える白い部分が脊髄です。

肝葉完全切除術

動物の肝臓はいくつかの房(肝葉と言います)に分かれています。肝葉の元から完全に切除する方法を肝葉完全切除、肝葉の一部を切り取る方法を部分肝葉切除と言います。

肝臓腫瘍はその起源から肝細胞性や胆管性、神経内分泌性などに、その形態から塊状、結節性、びまん性に分類されます。塊状の腫瘍が特定の肝葉に発生した場合に肝葉切除が行われます。結節性腫瘍やびまん性腫瘍が肝臓全体に発生した場合は外科治療は行われません。

症状

肝臓腫瘍は初期には無症状ですが、腫瘍のサイズが大きくなるとお腹が張ってきたり腫瘍の圧迫によって嘔吐や下痢などの消化器症状を示すことがあります。

診断

血液検査で肝臓の数値の上昇がみられます。レントゲン検査、超音波検査、CT検査などによっておおまかな診断がされますが、確定診断は外科手術後に組織検査によって行われます。
術前のCT検査は腫瘤の位置や大きさ、腹部の大血管や肝臓内の血管との位置関係を評価するのにとても役に立ちます。


肝臓に腫瘍ができたワンちゃんの肝臓超音波検査画像です。
腫瘍は胆嚢の左の胆嚢と接する位置にありました。
方形葉の腫瘍と考えてCT撮影をしました。


CT撮影で腫瘍と脈管、胆嚢の位置関係を確認しました。腫瘍は確かに方形葉にありました。左肝領域に向かう門脈が腫瘍のすぐ近くを通っていることがわかりました。(腫瘍を緑、胆嚢を茶色、門脈を紫、肝静脈を青に着色しています)

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CT検査で得られた画像の通り、腫瘍は方形葉の根本にありました。

治療

腫瘤が発生した部位によって部分肝葉切除あるいは完全肝葉切除が行われます。
完全肝葉切除を行うには、肝臓の解剖を完全に熟知しておくだけでなく腫瘍と肝内の血管や肝外の大血管との位置関係を術前のCT検査で把握し、綿密な術前計画を立案・実行できる能力が求められます。
犬の塊状肝細胞癌の完全肝葉切除術での生存期間中央値は1460~1836日と報告されていますが、術中死がおよそ5%で報告されています。

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腫瘍を方形葉ごと完全に切除しました。
方形葉は内側右葉と連絡していて胆嚢とも接着しています。
方形葉の完全切除には内側右葉との分離と胆嚢からの剥離が必要です。