当院の歯科について
犬の80%以上、猫の70%が2歳までに歯周炎になっているというが報告があります。
特に小型犬種では、歯周疾患にかかるリスクが高いことがわかっています。
一般に動物病院における「歯科」は抜歯を主体とすることが多いのですが、当院では予防歯科(重症化を防ぐための歯科処置に加え、ご自宅での日々のデンタルケアを組み合わせたもの)にも力をいれています。
診察時の口腔内チェック、ご自宅でのデンタルケア方法の指導から抜歯や口腔鼻腔瘻の治療などの外科処置まで幅広く対応しております。
当院の獣医師は日本小動物歯科研究会の講習実習(レベル4)を受講しています。
器具の使いまわしについて
昨今、ヒトの歯科医院での器具の使いまわしが話題になっていましたが、動物病院業界はどうでしょうか?当院では歯の切断に用いられるカーバイドバーや歯槽骨の平滑化に使っているダイアモンドバーなどは消耗品と考えて1頭に1本で使い捨てています。もちろん処置の途中に切れが悪くなったら新しいバーを出しています。当然ですが、歯肉や粘膜を縫合する縫合糸なども使い捨てです。いかに上手に短時間に処置を終わらせるかも大事ですが、衛生的に手術を行うのは基本中の基本であってここに病院としての姿勢が現れると考えていますので絶対に譲れないところです。動物だからヒトより衛生基準が緩くてもいいなどということは決してありません。動物も家族である以上ヒトと同様の衛生基準が求められて当然だと思いますので、当院では使い捨てに出来るものは全て使い捨てにして常に新品を使用しています。
歯科分野で多い症状
- よだれが出る
- 口臭がひどい
- 鼻水が出る
- 食べるときの様子が変
- 顔が腫れている
- 歯肉が赤い
- 口を気にしている
など
顔が腫れている猫ちゃん 歯周病でした
その他にも歯や口の中の状態で気になる点があればお気軽にご相談ください。
歯周病
歯周病とは炎症が歯肉までにとどまっている歯肉炎と炎症が歯肉だけでなくその周囲の歯周靭帯やセメント質、さらに歯槽骨までに波及してしまっている歯周炎の両方を合わせた病気と定義されています。
また、歯周病とは歯の周囲組織への細菌感染による慢性炎症性疾患であって歯が侵される病気ではありません。
その原因はプラーク(歯垢)であって歯石ではありません。歯石は増悪因子にはなり得ますが、直接の原因にはなりません。
健康な犬の口腔です。
I:切歯、C:犬歯、P1:第1前臼歯、P2:第2前臼歯、P3:第3前臼歯、P4:第4前臼歯、M:第1後臼歯、黄色点線:歯肉粘膜境、歯肉粘膜境の歯側が歯肉で口唇側が口腔粘膜です。
歯肉は知覚神経に乏しく痛みをあまり感じないようになっていますが、口腔粘膜には知覚神経が多く炎症や潰瘍があれば痛みを感じます。
重度歯周病のワンちゃんの口腔です。
上顎犬歯はすでに脱落していて、歯周病による骨吸収によって口鼻瘻になっています。
(口鼻瘻とは口腔と鼻腔の間に本来ある隔壁が消失して口腔と鼻腔がつながった状態を指します)
口鼻瘻の奥に見えている赤い部分は鼻粘膜です。
口腔粘膜に潰瘍があります
歯肉には神経があまり通っていないので痛みを感じにくくなっていますが、口腔粘膜は通常通りに神経が通っているので炎症や潰瘍があると痛みを強く感じます。
歯周病の原因であるプラーク(歯垢)について
プラーク(歯垢)は食渣(食べかす)ではありません。
プラークとは歯の表面に付着した粘稠性のある柔らかい物質で、種々の細菌と菌体外多糖からなる集合体です。プラークは口腔内細菌の主な生息部位と言われていて、プラーク1mg中に1億個以上の細菌が存在すると言われています。
次にその形成過程についてです。歯のエナメル質上に唾液成分から出来た薄い膜(ペリクル)が形成されます。ペリクルに初期定着細菌群(比較的良い細菌)が定着します。この初期定着細菌群が出す粘着性の物質によって本来は付着することができない後期定着細菌群(歯周病の原因菌)が定着し、増殖してきます。細菌が初期定着細菌群(比較的良い細菌)から後期定着細菌群(歯周病の原因菌)に入れ替わることで病原性のプラークが出来上がります。
次に病原性プラークの発生部位です。目に見えるような場所にできたプラークでは酸素の苦手な病原歯周病菌は増えにくくなっていますが、歯周ポケットの奥などの酸素が届かない場所にできたプラーク(歯肉縁下プラーク)では病原歯周病菌が増殖しやすい環境になっています。
最後にプラークによってどうやって周りの組織や歯槽骨に障害が出るかです。プラーク内の歯周病菌が出す毒素や酵素が直接歯肉や歯周靭帯、歯槽骨を攻撃します。また、歯周病菌に反応した生体側が歯周病菌と戦うためにプラークの周りに炎症をおこして歯周病菌をやっつけようとします。この生体からの攻撃によって歯周組織や歯槽骨の破壊が起こってしまうのです。
つまり、歯周病はプラーク内の歯周病菌によって引き起こされるのに間違いはないのですが、歯周病菌の作用に加えて生体側の防御反応が起こることよって更に悪化しているということになります。
歯周病を放置することのリスクについて
歯周病なのは何となくわかっていたけど、手術は怖いな~もうちょっと悪くなったら考えようかなって思いますか?
本当にそれで良いのでしょうか?
犬の僧帽弁逆流(心臓病の1種)の有病率が歯周病患者で17倍になるという報告や歯周病のない猫と比較して中等度歯周病のある猫は13.8倍・重度歯周病のある猫では35.4倍高窒素血症(=慢性腎臓病)になりやすいという報告が出ています。
僧帽弁逆流が出てしまったり慢性腎臓病になってからでは遅くはないですか?
実際、歯周病で歯槽骨が溶けて口から鼻に抜ける穴が開いたり(口鼻瘻と言います)、歯根周囲に溜まった膿のせいで顔に穴が開いたり(外歯瘻と言います)、下顎の歯槽骨が溶けたせいで何でもない普段の生活で下顎骨を骨折したりということは普通にあります。
それでもまだ、歯って放っておいたら自然に抜けるよねとお考えですか?
歯は自然には抜けません。歯周病で歯槽骨が破壊されるからグラグラになって抜けるのです。
多分、ここまでを読んで歯周病を放置することのリスクについて理解して頂いた方は、この後すぐにご自分が飼育されているワンちゃんネコちゃんの口の中を見るでしょう。
そして可能であれば触ってみると思います。歯と歯茎の間にネバネバしたもの(つまりそれこそがプラークなのです!)を見つけたら、これは何とかしなくてはいけないとお考えになると思います。
出来るだけ早めに動物病院に連れて行って歯周病の治療について動物病院の先生と相談してください。
そして飼育されている動物の健康が歯周病によって損なわれないように対策をしてあげて下さい。
重度歯周病のワンちゃんの下顎のレントゲンです。歯根の周りの歯槽骨が大きく吸収されているのが分かります。歯槽骨はあとほんの少ししか残っていません。
このような歯槽骨の吸収が激しい場合は、無理に力を掛けて抜歯しようとすると下顎骨が折れるので細心の注意が必要です。
歯科の診断・検査
歯口腔内の観察や病原歯周病菌がどの程度いるのかを調べる検査は無麻酔で可能だと思いますが、ほとんどの検査は麻酔下で行われます。
以下に当院で行っている歯科検査を挙げておきます。
歯肉指数;Gingival Index GI、歯垢指数;Plaque Index PI、歯石指数;Calculus Index CI、歯の動揺度;Mobility MO、根分岐部病変の分類;Furcation Index FI、ポケットの深さ;Probing Poket Depth PPD、付着レベル;Clinical Attachment Level CAL、歯科レントゲン検査
歯肉指数(GI)
GI 0 | 正常 | 正常で健康な歯肉 炎症も発赤も出血もない |
---|---|---|
GI 1 | 軽度の歯肉炎 | わずかな発赤、遊離歯肉辺縁の軽度炎症、プロービングによる出血(Bleeding on Probing:BOP) |
GI 2 | 中等度の歯肉炎 | やや広い範囲の発赤、腫脹 刺激時やプロービング時の出血(BOP)あり |
GI 3 | 進行した歯肉炎 | 炎症が粘膜歯肉境(Mucous membrane Gingival Junction:MGJ)にまで波及 重度の発赤と腫脹、潰瘍、自然出血しやすい状態 |
歯垢指数(PI)
PI 0 | 歯垢がない |
---|---|
PI 1 | 歯垢が1-25%歯冠を覆っている |
PI 2 | 歯垢が25-50%歯冠を覆っている |
PI 3 | 歯垢が50-75%歯冠を覆っている |
PI 4 | 歯垢が75-100%歯冠を覆っている |
歯石指数(CI)
CI 0 | 歯石がない |
---|---|
CI 1 | 歯石が1-25%歯冠を覆っている |
CI 2 | 歯石が25-50%歯冠を覆っている |
CI 3 | 歯石が50-75%歯冠を覆っている |
CI 4 | 歯石が75-100%歯冠を覆っている |
動揺度(MO)
M 0 | 0.2mmまでの生理的動揺あり |
---|---|
M 1 | 0.2-0.5mmの垂直(歯軸)方向以外の動揺あり |
M 2 | 0.5-1.0mmの垂直(歯軸)方向以外の動揺あり |
M 3 | 1.0mmを超える垂直(歯軸)方向以外の動揺か垂直方向の動揺あり |
根分岐部の分類(FI)
FI 0 | 根分岐部病変無し 歯周プローブが根分岐部に入らない |
---|---|
FI 1 | 歯周プローブが根分岐部に歯の厚みの半分以下入る |
FI 2 | 歯周プローブが根分岐部に歯の厚みの半分以上入るが貫通しない |
FI 3 | 歯周プローブが根分岐部を貫通する |
ポケットの深さ(PPD)、付着レベル(CAL)
歯周プローブを歯肉溝に垂直に入れて歯周ポケットの深さを確認します。
小型犬や猫では1-2mm、大型犬では3-4mmが正常です。
歯科レントゲン
以上の歯科検査に加えてレントゲン検査によるアタッチメントロスの評価や周囲組織、歯根の状態の評価し治療方針を決めます。
歯周病のステージングと治療
歯肉炎(Stage1):アタッチメントロスが無い歯肉炎のみの状態。歯槽骨縁の高さと構造は正常
軽度歯周炎(Stage2):アタッチメントロスが25%以下
中程度歯周炎(Stage3):アタッチメントロスが25-50%
重度歯周炎(Stage4):アタッチメントロスが50%以上
注:アタッチメントロスとは本来あるべき歯槽骨が喪失している状態
例:アタッチメントロスが50%とは、歯根長に比べて歯槽骨が50%喪失している状態
それぞれの歯周病ステージにおける基本的な治療方針
歯周病ステージ | 治療 | |||
---|---|---|---|---|
歯肉炎 | ホームケアあるいは歯肉縁上スケーリング | |||
軽度歯周炎 | スケーリング | ルートプレーニング | ||
中程度歯周炎 | スケーリング | ルートプレーニング | キュレッタージ | 必要に応じて抜歯 |
重度歯周炎 | スケーリング | (ルートプレーニング) | (キュレッタージ) | 抜歯 |
上記の基本的な治療方針に加えて、治療時の年齢・基礎疾患の有無・ホームデンタルケアが可能かどうかなどを考慮して治療内容を決定します。
歯科処置が必要なのはわかったが、1回歯科処置をしても数年もするとほとんど処置前と変わらなくなる。生涯の内にそんなに何度も麻酔をかけても寿命が短くなったりしませんかとの質問を受けることがあります。麻酔のリスクについては麻酔科に詳しく書きましたのでそちらを読んで頂ければと思いますが、麻酔をかけて歯科処置をすると寿命が短くなるのかという疑問について答えている報告があります。
犬の寿命に関連するリスク因子についてという約238万頭の犬の寿命について調べた調査(Silvan R. Urfer JAAHA 2019)によると、1年に1回の歯科スケーリングは死亡リスクを18%低下させると報告されています。統計調査ですから歯科スケーリングによって個々の動物の寿命が延長するかどうかは不明ですが、少なくとも統計的には1年に1回の歯科処置によって寿命が短くなるようなことはないようです。
ホームデンタルケアについて
歯周病の治療や管理を考えた時に、自宅でのデンタルケアは欠かせません。
1年に1回麻酔をかけて徹底的にきれいにしても自宅でのデンタルケアが無ければ1年後の麻酔下での歯科処置までに歯周病は進行してしまいます。
歯周病の元凶はプラークですが、プラークは大まかにいうと排水口のヌメヌメと同じものです。
水の流れがあるところにはどこにでも出来ます。
排水口のヌメヌメを掃除してきれいにするのに一番効果的な方法はブラシで擦る方法だと思います。
口腔内も同じで、プラーク除去をしようと思ったらブラシで擦るのが一番効果的です。
つまり、歯磨きです。
WSAVA Global Dental Guideline では1日1回の歯磨きを推奨しています。
動物の歯磨きはなかなか大変です。嫌がる動物を押さえつけて歯磨きをするようなやり方では上手くいきません。
出来ることからステップを踏みつつ少しずつ前に進んでいって、最終的にブラシで歯磨きが出来るようになります。
歯磨きが動物とご家族の楽しいスキンシップの時間になるといいですね
(歯周病以外の)代表的な歯科の病気
歯科での一般的な病気の一部をご紹介します。
猫の慢性歯肉口内炎
猫の慢性歯肉口内炎とは口腔尾側粘膜に炎症を起こす慢性疾患です。尾側粘膜以外にも歯肉、口腔・咽頭粘膜、口蓋粘膜、舌などにも炎症を起こします。原因は現在のところ不明ですが、特定のウィルスや細菌の感染、口腔内細菌の多様性の低下、口腔内微生物に対する過剰な免疫反応などの複合的な要因が指摘されていて、口腔内微生物の絶対量を減少させることで症状を軽くする治療が行われています。
症状は口腔内の疼痛、よだれ、口からの出血や血混じりのよだれ、食事量の低下とそれによる体重減少、口臭、前肢の汚れ、性格の変化(強い疼痛による)などです。
治療は、全臼歯抜歯か全顎抜歯が選択されます。この全臼歯抜歯や全顎抜歯の処置には注意が必要で、歯根を残したり(残根と言います)既にある残根を見逃したりすると治療がうまくいきません。処置後にはレントゲン撮影をして残根が残っていないことを確認します。
内科治療はあくまで外科療法の補助という位置づけですが、基礎疾患があって全身麻酔がかけられない場合や全顎抜歯を行ってもなお症状が残る場合に行われます。
強い疼痛が主症状であるこの病気は、その強い疼痛により猫ちゃんがガリガリに痩せて見た目が変わってしまったり、疼痛により性格までもが変わってしまう怖い病気です。早期の診断と適切な治療によって症状の緩和が望めますので早めに動物病院を受診してください。
歯肉口内炎の猫ちゃん 歯科処置前の口腔内です。潰瘍が痛そうです。
食べたい気持ちはあるが、口が痛くて食べ物が食べられないようでした。
歯科処置2か月後の口腔内です。潰瘍がすっかり無くなっています。
ご家族のお話ではもうすっかり痛みは無さそうとのことでした。
破折
歯が折れたり欠けたりすることを破折と言います。ヒトの咬合をすり鉢状咬合と言いますが、イヌやネコの咬合をハサミ状咬合と言います。すり鉢状の奥歯で硬いものを噛んでも破折は起きにくいですが、ハサミ状の奥歯で硬いものを噛むと比較的容易に破折が起きます。
左上顎第4前臼歯の破折です。上顎第4前臼歯は最も破折のリスクが高い歯です。
ちなみにちょうど噛み合う位置の下顎の第1後臼歯も微妙に破折しています。
大型犬から小型犬まで破折は起こりますが、猫では稀です。
破折により神経が露出してしまうと(露髄と言います)抜歯か歯内治療が必要になります。
また別のワンちゃんです。ヒマラヤチーズというカチカチのチーズを噛んでいたそうです。
破折して露髄しています。
右上顎犬歯の破折です。
犬歯は転倒などによる衝撃で破折することがほとんどです。
歯の吸収病巣 Tooth Resorption TR(猫)
多核破歯細胞によって歯質が破壊・吸収されて欠損部に炎症性の歯肉が増殖する病気です。
猫の有病率はとても高く、20-67%が罹患していると言われています。
歯に穴が開いてしまうので痛そうですが、痛みが出ないことが多いです。歯質が吸収されて穴が歯髄まで到達すると痛みが出ることがあります。
下顎第3前臼歯、下顎第1後臼歯、上顎第3第4前臼歯に好発しますが犬歯に発症するときもあります。
吸収病巣のステージ分類
Stage1:エナメル質とセメント質の軽度吸収
Stage2:象牙質までの吸収 歯髄には達していない
Stage3:歯髄にまで達する吸収
Stage4:歯髄を含む広範囲の吸収・歯の大部分を喪失
Stage5:歯冠の消失
吸収病巣のタイプ分類
Type1:吸収が歯頚部と歯冠に存在し、歯根には異常が確認できない
Type2:歯根が周囲の骨に置換されている 歯根膜腔の狭小化あるいは消失
Type3:1つの歯にType1とType2の病変が混在している
以上の分類を用いて吸収病巣をType1のStage2やType2のStage5のように表現します。
Type1およびType3の治療は抜歯になります。Type2の治療は歯冠切除になりますが、歯肉口内炎があれば歯根の摘出をしなくてはなりません。
吸収病巣の歯を持つ猫ちゃんです
隣の2本の歯と比べて明らかにレントゲンの透過度が上がっています。
吸収は歯冠から歯根まで広範囲に認められ、歯根膜腔が認識できなくなっています。Type2 Stage4の吸収病巣です。
不正咬合
咬合とは上下の歯が噛み合うことを言いますので、不正咬合とは上顎の歯と下顎の歯の噛み合わせがうまくいってない状態を指します。
ここでちょっと脱線しますね。犬と猫ではヒトとは歯の噛み合わせ方が異なっています。ヒトの咬合はすり鉢状咬合と言って上の奥歯と下の奥歯がすり鉢のように当たって食物を噛み砕けるようになっていますが、イヌとネコではハサミ状咬合と言ってハサミのように上下の奥歯はお互いにすれ違うようになっています。よってイヌとネコの歯が噛み合うというのはヒトの歯が噛み合うというのとちょっと違っていて、噛み合っていますが上下の歯はすれ違っている状態になっています。
不正咬合は犬では比較的多く見られ、不正咬合が原因で食べ物が食べにくくなったり歯肉に損傷が発生することもあります。
クラス1(クロスバイト):上顎と下顎の骨の長さのバランスは正常ですが、個々の歯の萌出角度(生えて来る角度ということ)に異常があり、正常な咬合でない箇所が単数もしくは複数存在する。
クラス2(オーバーバイト):上顎の骨が下顎の骨より長い骨格性不正咬合
クラス3(アンダーバイト):下顎の骨が上顎の骨より長い骨格性不正咬合
クラス4(ライバイト):ねじれた咬合と呼ばれます。上下顎の真ん中(正中と言います)が合わず、上顎か下顎どちらかで片方(右か左)の骨が短い不正咬合
乳歯遺残
犬も猫も仔犬、仔猫の時には乳歯が生えていますが、生後4か月ごろから永久歯が生えてきます。乳歯から永久歯への交換は通常7か月齢までに終了しますが、交換がうまくいかないで抜けるべき乳歯が残ってしまった状態を乳歯遺残と言います。本来永久歯が位置するはずの場所に乳歯が残っているせいで永久歯が別の位置に生えてきて不正咬合などの問題を起こすことがあります。
生後7か月齢になっても乳歯が残っていて永久歯が生えてきてしまっている場合には、残存乳歯の抜歯をお勧めします。通常7か月齢までは歯の根尖という部分が開いていますが、7か月齢を過ぎると徐々に根尖が閉じてきます。根尖が開いているうちは、歯の移動は比較的容易ですが、根尖が閉じてからは移動が困難になったり移動により歯への血流が途絶えて失活歯になることもあります。
左上顎乳犬歯の遺残です。早期の抜歯によって永久犬歯が本来の位置に戻ります。
乳歯と永久歯の萌出時期
乳歯(週齢) | 永久歯(月齢) | |||
---|---|---|---|---|
犬 | 猫 | 犬 | 猫 | |
切歯 | 3-6 | 3-4 | 3-4 | 3-4 |
犬歯 | 3-5 | 3-4 | 5-6 | 4-5 |
前臼歯 | 4-6 | 5-6 | 4-6 | 4-6 |
後臼歯 | 5-7 | 5-6 |
乳歯と永久歯が共存する期間
上顎犬歯:1~3週間※
下顎犬歯:0~2週間
切歯・臼歯:ほとんどなし※
※つまり、上顎犬歯の永久歯が少しでも見えてきてから3週間経過しても上顎乳犬歯が残っていたら、残っている乳歯を抜歯した方がいいよということです。
切歯(一番前の小さい歯)については、永久歯が生えてくるときには乳歯は抜けていないといけないので、もし残っていたら抜歯をお勧めします。ちなみに、抜けなくてはならない時期になっても乳犬歯が残っていた場合、その75%で将来不正咬合が発生していると報告されています。
埋伏歯と含歯性嚢胞について
生えて来るべき歯が生えてこない状態を欠損歯と言います。生えるべき歯が無い場合が多いのですが、歯の萌出がうまくいかずに歯槽骨の中に留まっていることもあります。
永久歯が生えそろった段階で過剰歯(歯が多い)と欠損歯(歯が足りない)について眼で見て確認します。過剰歯は、歯間が密になっていて将来歯周病になりそうな時は抜歯します。欠損歯では、本当に歯が無いのか歯槽骨の中にあるのか(埋伏歯と言います)をレントゲン検査で調べます。
埋伏歯を放置しておくと3-5歳で含歯性嚢胞という状態を作ることがあります。含歯性嚢胞は周囲の骨を破壊しつつ大きな袋(嚢胞といいます)を形成します。外科手術で取り除くことになりますが、大抵の場合周囲の骨の破壊が重度で顔に大きな窪みができることになります。破壊された骨は元には戻りませんので見た目も変わってしまいます。含歯性嚢胞は埋伏歯に気づいて適切な処置をしていれば防げる病気です。永久歯が生えそろった時点で過剰歯と欠損歯があるかどうかの検査を受けることをお勧めします。