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門脈体循環シャントの手術は必要か?~その判断とリスク~
門脈体循環シャントの手術は必要か?~その判断とリスク~
2024年03月14日
門脈体循環シャントの手術は必要か?~その判断とリスク~(第20回 日本獣医内科学アカデミー 教育講演)という教育講演を受講しました。
講師はライフメイト動物救急センターの金本英之先生でした。
お腹の中には動脈(心臓から血液を送る方)・静脈(心臓に血液が帰っていく方)以外に門脈という血管があります。門脈とはお腹の中の主に消化管から血液を集めて肝臓に送る血管で、肝臓に送られた血液は肝静脈を通って後大静脈に送られて心臓に帰っていきます。門脈体循環シャントとは「何かしらの理由」によって門脈から肝臓を通らないバイパス血管が出来て門脈血が直接後大静脈に流入してしまう状態を言います。
門脈体循環シャントでは肝臓で分解されるはずの毒物が分解されないまま静脈に流入してしまったり、肝臓に流入する血液量の減少から肝臓の発達障害と肝機能障害が起こってしまったりします。
金本先生は始めに門脈体循環シャントの分類(先天性/後天性、単発性/多発性、肝内性/肝外性など)についてお話されていました。この部分が先ほど述べました「何かしらの理由」ってやつですね。
先天性は言うまでもないかと思われますが、後天性門脈体循環シャントには門脈圧が上がってしまうような原発疾患があります。例えば慢性肝炎だったり肝硬変だったり色々ですね。
大抵の場合は先天性の門脈体循環シャントは肝外で単発性だったりします。
次に金本先生は門脈体循環シャントの手術リスクについてお話していました。
門脈体循環シャントの手術とは、何かしらの理由によって出来てしまったバイパス血管を縛って血流を遮断して血流を本来の肝臓を通った流れに戻すという術式です。色んなやり方が報告されていますが、当院では一番安全と思われる術中の門脈圧や消化管の様子などによって場合によっては部分結紮を挟む2段階結紮法を採用しています。
しかし、門脈体循環シャントの手術には術後に神経症状を起こすリスクがあります。場合によってはコントロール不能なけいれん発作によって亡くなるか安楽死が選ばれることもあります。当院では残念ながら術後に亡くなってしまうリスクは大体10%くらいと飼い主様方にはお話しています。
よって手術をするかしないかはとても判断が難しい問題だと思っています。
今回金本先生が示されていた門脈体循環シャントの症例に対して外科手術をしたグループと内科治療をしたグループのカプランメイヤー曲線によると内科治療をしたグループで約半数の症例が亡くなってしまう(つまり約半数の動物が生き残っている)期間が治療開始後1000日弱でした。
外科手術で亡くなる確率大体10%は怖いから手術しない方向で考えても、これから先生きていられる期間はもしかしたら3年くらいかも?ってことですよね。1歳で内科治療を始めて、3年後は4歳です。カプランメイヤー曲線というのは統計なので、全ての動物が治療開始後3年弱で亡くなるということではありません。残念ながらもっと早くに亡くなってしまう動物もいるでしょうし、もっと長く生きられる動物もいると思います。
最後に金本先生は症状がない症例や症状が微妙な症例を提示して会場の先生方に手術を勧めますか?勧めませんか?というような問いかけをしていました。ほとんどの先生方がわからないと答えていました。
金本先生は「自分もわからないので飼い主様に決めてもらう」とお話されていました。
動物病院の獣医がわからないのですから飼い主様が簡単に決められるようなものではないのでとても難しい問題だと思います。
もし自分ならと考えてみました。症例が1歳で食後に肝性脳症のような症状をだしている門脈体循環シャントであれば自分であれば手術をお勧めすると思います。もし症例が8歳でたまたま健康診断で門脈体循環シャントだと分かったけれど症状は特にないということであれば手術はお勧めしないと思います。
これは多分多くの先生方もそうだと思います。
しかし白と黒の間には様々な色調の灰色があるように今の2症例の間には多くの様々な状態の症例がいます。簡単に判断することはできません。とても難しいですね。最終的には飼い主様の判断になると思います。