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たかが?されど!犬の急性下痢を診直す


たかが?されど!犬の急性下痢を診直す
2025年12月09日
たかが?されど!犬の急性下痢を診直すというwebセミナーを受講しました。
本セミナーはロイヤルカナン消化器特別セミナーとして配信されたもので、講師はアジア獣医内科専門医の大野耕一先生でした。
大野先生は元東京大学医療センター内科科長だった先生ですね。
いきなりですが、最近下痢治療における抗菌薬使用に対する風当たりが非常に強いです。
本ブログでも何度も言っていますが、もうあちこちのセミナーやら論文やら報告やらで下痢に安易な抗菌薬使用は推奨されないというようなことがよく言われています。
そのような風潮の中ではなかなか大きな声では言いにくいのですが、一般的な下痢止めや整腸剤が全く効かないのに抗菌薬がスパッと効く症例さんは実際いるんですよね。
当院でも急性の下痢症例では、とりあえず一般的な下痢の治療薬と整腸剤を出しますねとお話して問題の無さそうな治療薬を出しています。治る症例と治らない症例があります。
飼い主様から治らないと言われるとメトロニダゾールという抗菌薬を3-5日程度出すことが多いです。
ほとんどの場合でメトロニダゾールですぐに治ります。
良いんです。ここまでは。
安易に抗菌薬を出すなよとの空気はありますが、一旦ちゃんと治療を試みてますからね。
治らないから抗菌薬を短い期間出した。それは責められることではないと思います。
問題は次に下痢した時です。
飼い主様からこの前の効いた方の薬ちょうだいと言われることが良くあります。
お気持ちはとてもよくわかります。全く効果のなかった薬よりは前回下痢がすぐに治った薬を出して欲しいですよね。
当然だと思います。
しかし世の中の風潮としては「安易に抗菌薬を出すべからず」です。
まああの、出してます。抗菌薬。すみません。(いや誰に謝ってんだって話ですけどね)
そんな抗菌薬に対する厳しい風潮の中、今回のセミナーで大野先生が素晴らしいお話をしてくださいました。
大野先生は元々東大の動物医療センターで内科科長だった先生ですが、今は一般病院で働いていらっしゃいます。
二次診療施設から一般病院に移ってから、一般病院って急性下痢の症例こんな来るの?と驚いたそうです。
まあそうですよね。急性下痢の症例を二次診療施設に紹介してたら診療日までに普通は治りますからね。
ちなみに、急性下痢と慢性下痢の境界はどのへんかご存じでしょうか?
大体2週間経っても治らない場合慢性下痢と考えるようです。
2週間治らない下痢は、大抵の場合何かしら動かしがたい原因があることが多いです。
話を大野先生に戻します。
急性下痢の症例がこんなに多いのか!と驚いた大野先生は、一般的に推奨されている治療と抗菌薬治療について調べてみたそうです。
病院に来院した急性下痢の51症例に止痢薬(=下痢止め)+プロバイオティクスを3日間出してみて下痢が治るかどうか見てみたところ、51症例中3日以内に下痢が治った症例は19症例で37%だったそうです。
そして治らなかった症例の内25症例に次に抗菌薬を処方したところ、全例で3日以内に下痢が治ったそうです。
これぞまさに僕や町の獣医さんが皆感じていたことだと思います。
急性下痢に抗菌薬を使っても治癒期間や改善率に差はないとかむしろ治癒期間が遅れるというような報告が出ていますが、いやいやいや、そうですか?
そんなことなくない?っていうか抗菌薬で下痢治るよね!!ってことです。
大野先生はセミナー内でこの結果は最近の急性下痢の症例に抗菌薬を使っても効果が乏しいという報告と一致しないと仰っていました。
しかし同時に抗菌薬投与を受けていた症例の中で細菌培養検査で菌の同定をしていた14症例のうち1症例でESBL陽性大腸菌という抗菌薬に耐性を持った菌がでていたことや、抗菌薬投与を受けていた25症例の内6症例で1か月以内に再発があったことなどから急性下痢の治療にまずは抗菌薬を使うという治療は推奨されないともお話されていました。
当院の方針としても急性下痢の症例にまずは下痢止めや整腸剤を使うことに変わりはないと思いますが、大野先生のおかげで症状の改善に乏しい場合次に抗菌薬を出す時の心のチクチク感が若干減るかもしれないと思いました。
またセミナー内で食物反応性腸症について、「IgE検査(所謂食物アレルギーの血液検査)が、食事反応性腸症の診断やアレルゲンの特定に役立つという話は全くない」とかまた皮膚科領域でも食物抗原の特定にIgE検査は意味がないとされていることから、IgE検査の結果に基づいて食事内容を制限するのはナンセンス!とお話されていました。
分かりにくい言い回しなのでわかりやすく書くと、「食事性アレルギーの原因を血液検査で調べることはできない」ということです。
ええ、まあそうなんですよ。
(動物病院での常識になっていないだけで)消化器内科の専門医や皮膚科の専門医は皆そう言ってます。
普段他院で治療を受けている動物の飼い主様から、血液検査で牛のアレルギーと出たから牛肉控えてますとか言われることがあるんですが反応に困ります。
「あ~。。。。はあ そうですか」(心の声:これ以上この話題に踏み込むとお互い色々と困ることになりそうだからあえて放っておいた方が良さそうだが、動物の為にはなっていないかもね。でもまあ現状うまく行っているのなら黙っておいた方が良さそうかな)とか変なお返事をして診察室におかしな空気が流れます。
本ブログにも微妙な空気が流れていそうなので話題を変えます。
食事性アレルギーとよく聞きますが、実はアレルギーではないのでは?という意見が最近出ています。
食事性アレルギーと診断されて除去食を食べていた症例の一部が、食事を元の食事に戻しても症状が再発しないことがあるという報告がでています。
アレルギーは普通治りませんから、元の食事に戻したら症状が再発するはずです。
元の食事に戻しても症状が再発していないということは、アレルギーではないということになります。
実際当院の症例さんでも元の食事に戻して再発がみられない症例さんいますね。
これから先生涯ずっと同じ食事じゃないといけないとか窮屈すぎますよね。
この辺の詳細はまだ分かっていないようで、偉い先生方のこれからの研究報告を待ちたいと思います。
大野先生のお話はこれからの急性下痢の症例に対する治療について若干の勇気を頂けるお話でした。









