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時 間 午前9~12時、午後4~7時
休診日 火曜日・祝日

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急性後肢麻痺が来た!どうする?

2025年12月29日

急性後肢麻痺が来た!どうする?というwebセミナーを受講しました。
本セミナーはVETS TECHさん主催で講師はTRVA動物医療センターの塗木貴臣先生と右京動物病院の平野隆爾先生でした。

塗木先生は主に猫の動脈血栓塞栓症と犬の脊髄疾患についてお話をされていました。
平野先生は主に犬の急性脊髄疾患の中でも凶悪な脊髄軟化症の治療についてご自身が発表した報告などについてお話されていました。
今回のセミナーはすごかった!塗木先生の話もとても勉強になるお話でしたが、今回は平野先生のお話について本ブログで感想などを述べていきたいと思います。

犬の椎間板ヘルニアにはハンセンⅠ型とハンセンⅡ型がありまして、ハンセンⅠ型は軟骨異栄養性犬種(ダックスフンド・コーギー・ペキニーズなど)に好発する急性の後肢麻痺を主な症状とする椎間板ヘルニアです。
大まかにハンセンⅠ型の椎間板ヘルニアの発生病態を説明をしますと、背骨=椎骨同志の間には椎間板というものが挟まっています。
椎間板のおかげで椎骨同志がゴツゴツ当たらないで済んでいるんですね。形はフリスビーを膨らませたような円盤状で主に線維輪という硬いゴムのような物質で構成されています。中心には髄核というジェルのようなものが高圧で圧入されていて、髄核によって線維輪がバンバンになっていると思ってください(擬音多すぎですかね?イメージ伝わりましたか?)。
軟骨異栄養犬種は生まれながらに線維輪が虚弱になっていまして、ある時椎骨同志のぶつかり圧や屈曲などで圧力がかかった時に中心の髄核の圧力に負けて線維輪が切れて髄核が勢いよく飛び出してしまいます。
勢いよく飛び出した髄核によって脊髄が傷害されたり、限られた脊髄腔内に飛び出した髄核の物理的な圧迫によって脊髄機能が障害されて麻痺がでるようになります。

この「勢いよく飛び出した髄核による脊髄の傷害」にはその程度によって色々と違いがありまして、時に脊髄内に出血を起こすことがあります。実際に椎間板ヘルニアの手術をしてみると髄核によって傷害を受けただろう部位が若干赤くなっていることがあります。ご興味のある方は当院での椎間板ヘルニアの手術画像(←クリックすると手術中の脊髄の画像にとびます)を見て頂くとイメージが湧きやすいと思います。(◯で囲った部分が脊髄の他の部分より赤くなっていると思います。)

脊髄傷害の程度が重度で脊髄内で出血があると脊髄が壊死してしまうことがありますが、これを脊髄軟化といいます。
脊髄は硬膜という硬めの膜に覆われているのですが、脊髄内で出血があると硬膜で覆われている脊髄内の圧力が上がって血液が流れなくなります(梗塞と言います)。血液が流れなくなった部位の脊髄の細胞は酸素や他の生きていくために必要な物質の供給が途絶えることによって死んでしまいます。これを壊死と言います。出血→梗塞→壊死(脊髄軟化)という流れなのですが、冒頭で脊髄軟化症は凶悪だと書いたのは出血→梗塞→壊死(脊髄軟化)という流れが隣接する脊髄に波及することがあるからです。
ある部分の脊髄に起こった軟化症が水面に石を投げると起こる波紋のように広がっていくことがあるということです。
腰椎にある脊髄からは呼吸や循環に関わるようなどうしても生きていくのに必要な神経はでていません。
そこがだめになればもちろん後肢は動かなくなりますし、排尿排便自力ではできなくなります。しかし、生きてはいけます。
ただ、波紋のように広がった軟化症が頚髄(C3ーC5)まで達すれば呼吸ができなくなるので亡くなってしまいます。
この脊髄軟化症が波紋のように頭側と尾側に広がった状態を進行性脊髄軟化症と呼びます。とても凶悪な致死的な病態です。

進行性脊髄軟化症の説明がかなり長くなってしまいましたが、話をセミナーに戻します。
平野先生は、この脊髄軟化症は治せる!と言っていました。
今までの常識では脊髄軟化症は獣医学ではどうにも手が付けられない病態で、進行が止まるように祈るくらいしか方法がありませんでした。

それが、「治せる」というのです。
実際に2020年にBMC Veterinary Reserchに「広範囲に脊椎造窓術と硬膜切開術を行った脊髄軟化症の犬34症例の治療成績」という(ような=翻訳がおかしかったらすみません)論文を出していて、術後の短期生存率97.1%という素晴らしい成績を残していらっしゃいました。
過去の報告では、進行性脊髄軟化症になった犬の生存率は8%と言われていますからものすごい高い生存率です。
治療の理論は単純で、硬い硬膜に覆われた脊髄内で出血がおこることで脊髄が圧迫されて梗塞がおきて壊死につながるのであれば、硬膜を切って圧力を開放すればいいんじゃないの?ということです。
まず術前にMRI検査によって軟化していそうな脊髄のエリアを調べておいてそこよりもやや先まで脊椎造窓と硬膜切開を広範囲に行って脊髄の圧力を解放するらしいです。
言うのは簡単ですが、造窓と硬膜切開を広範囲に行うのはかなり大変な作業だと思います。
通常行われる椎間板ヘルニアの手術では造窓は1か所ですが、MRIで調べた検査結果によると思いますが造窓10箇所以上のような感じになると思います。
平野先生は手術時間は3-4時間とお話されていましたが、もしウチの病院で手術するとしたら5時間は用意しておきたいと思いました。
手術も大変ですが、術後の普段の管理も大変です。
命は助かりますが、自力での排尿排便はできるようにはなりませんから生涯飼い主様の介助が必要になります。

まあこの辺が国内の平野先生が世界的な報告をだした理由とも関わるところですが、今まで進行性脊髄軟化症の致死率は90%と言われていました。
しかしこの致死率は「安楽死を含む致死率」です。
海外では安楽死に対する考え方が日本とは異なっていて、恐らく進行性脊髄軟化症になった犬の多くが安楽死されていると思われます。
よって進行性脊髄軟化症の犬に治療をするという発想が無かったのではないかと思います。

セミナーでも海外の先生から自力歩行や自力排尿ができない犬を生かしておくのはかわいそうだと言われたとお話されていました。
おそらく国内の飼い主様のほとんどが、費用的な問題さえ解決すれば手術を希望されると思います。
少なくとも術後自力で歩けないからとか介助が必要だからといった理由では安楽死を選択されないと思います。
この辺は宗教観を含む考え方の違いなのでどちらがあっている間違っているということは無いと思いますので、それぞれの飼い主様がそれぞれのお考えに沿って決めていけば良いと思います。

今回のセミナーはすごかった!
平野先生すげー!!

ブラボー!!!