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時 間 午前9~12時、午後4~7時
休診日 火曜日・祝日

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大論争(緊急セミナー)、犬の関節炎の治療法の最新情報

2025年07月20日

大論争(緊急セミナー)、犬の関節炎の治療法の最新情報というwebセミナーを受講しました。
講師はアメリカで活躍されておりますコーネル大学教授で米国獣医外科専門医の林慶先生とノースカロライナ州立大学整形外科助教の榎本昌孝先生でした。
林先生と榎本先生は講師と言いますか、林先生は外科の立場から榎本先生は内科の立場から骨関節炎やリブレラという最近新しく出てきた鎮痛剤について議論をするというセミナーでした。

ここでリブレラという新しく出てきた鎮痛剤について説明をしておきます。
リブレラは薬剤としてはbedinvetmabという薬で、痛みの伝達に関わる神経成長因子(NGF)に対する抗体薬になります。
痛みの伝達に関わるNGFの働きを阻害して痛みを軽くしようという狙いの薬です。
(2年前にリブレラ発売記念webセミナーを受講した時のブログ(リンク先にとびます)を挙げていましたので興味のある方は見に行ってみてください)
当院でも数頭の骨関節炎を患う症例さんが月に1回注射をうっていて痛みの症状の改善という意味で良好な手応えを感じています。
そのリブレラについて最近アメリカやヨーロッパで危ない薬だとの情報がSNSで出回っていて大変なことになっているので外科の立場から林先生が内科の立場から榎本先生が喧々諤々の議論をしようじゃないかという、何というかいかにもYouTube的に企画されたwebセミナーでした。

主に林先生は外科で治るものであれば外科をすればいいのでリブレラ必要ないというお話をされていて、榎本先生はNSAIDsよりもリブレラの方が疼痛を改善する効果が強かったという報告などを提示して外科ができない場合などには使ってもいいのではとお話されていました。
またリブレラには副作用がかなりあるというようなことは言われているが、本当に骨関節炎なのかを診断しないで使っている症例も多いのではないかと2人とも話されていました。

実は1か月ほど前にリブレラの販売元の社員さんが当院に慌ててやってきましてアメリカやヨーロッパのSNSで大変なことになっているがそれほど危ない薬ではないというようなことをお話して帰って行かれたことがありました。
販売元の社員さんが提示されていたのがリブレラによって骨が溶けるというような報告だったと思いますが、それがリブレラを使っている犬にRPOA(Rapidly Progressive Osteoarthritis)を含む色んな副作用が発生したという報告(Musculoskeletal adverse events in dogs receiving bedinvetmab (Librela))(リンク先にとびます)だったと思います。
林先生によるとRPOAはヒトでは抗NGF抗体薬を使っている患者さんの1-5%程度に出る副作用らしく、あまりに発生率が高くまた副作用の重症度が高いのでFDAの認可が下りなくなってヒトではすでに使われていない薬だそうです。ただしリブレラを使っているイヌでのRPOAの発生率は1%以下だとも話しておられました。林先生は同時にヒトで報告されていたRPOAは今までイヌでは全く報告がなかったのにリブレラを使ったイヌに初めて報告がでているので(きちんとした研究がなされていないので確かなことは分からないがと前置きをされたうえで)状況証拠からRPOA発症についてリブレラの関与を疑うとも話しておられました。
またリブレラにNSAIDsを併用するとRPOAの発生率があがるらしいので併用はしないほうがいいともお話されていました。

リブレラが阻害する神経成長因子(NGF)は傷害された関節の修復にも関わっているというお話もありました。
NGFの働きを阻害することで関節炎が治りにくくなるということもあるかもしれません。
リブレラは関節炎の治療薬ではありませんから、働きをよく理解して使う際のメリットとデメリットを比較しながら使うべきだと思いました。

リブレラは今まで流通していた薬よりも手軽に高い鎮痛効果が得られることから、きちんと診断をして必要な症例に適切に使用すれば動物もそのご家族もまた動物の診察や治療を行う動物病院もハッピーになれる薬だと思いますが、使用すべき症例を誤ってしまったりNGFの働きを阻害するということはどういうことかを理解しないまま使っていれば思わぬ副作用に直面してしまうこともあるかもしれません。
今まで知らなかったこともいくつかありますから、少なくとも今使っている動物の飼い主様方には現在の正しい情報をお伝えしておこうと思います。