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MRIがなくてもここまでできる! ~前庭疾患の診断と治療指針~


MRIがなくてもここまでできる! ~前庭疾患の診断と治療指針~
2025年05月30日
MRIがなくてもここまでできる! ~前庭疾患の診断と治療指針~というwebセミナーを受講しました。
講師はTexas A&M Universityの伊藤大介先生でした。
伊藤先生のお話はいつもわかりやすくて先生のセミナーを受講した後は神経病の診断について以前より目の前が明るく開けるような感覚になります。
前庭疾患って何?ってなりますよね。前庭というのは平衡感覚や加速などを感知する部分で、内耳(鼓膜のさらに奥の方)にある半規管などから延髄や小脳までを含みます。大雑把に言うと内耳と内耳神経に何かしらの問題が起こってしまった場合を末梢性前庭疾患、そこよりさらに奥の方の脳に問題が起こってしまった場合を中枢性前庭疾患ということになります。
ある程度年をとった犬によくみられるのが原因不明の前庭疾患で特発性前庭疾患です。
色々な検査をしても原因不明な場合に、原因不明なという意味の特発性という名前をつけて特発性前庭疾患と言われますが、歳をとった犬によく見られるので別名老齢性前庭疾患とも言われます。
前庭疾患では捻転斜頸や眼球振とう(じっと見ていると目が一定のリズムで左右あるいは上下に動いています)、運動失調(ふらつき・転倒・旋回・回転など)などの症状が見られます。また眼球振とうによって目が回っているので気持ち悪くなってしまって吐いたり食欲低下などの症状がでることもあります。
特発性前庭疾患≒老齢性前庭疾患では、無治療でも大体1週間位で症状が消えることがほとんどです。
老齢性前庭疾患を強く疑う場合などでは無理にMRI検査をお勧めしませんが、対症療法をしてもいつまでも症状が消えない場合や内耳や脳に問題がありそうな場合に飼い主様にMRI検査をお勧めすることはよくあります。
伊藤先生はMRI検査をしなくてもある程度病気の場所や種類を想定できるよ!というお話をされていました。
神経疾患ではよくDAMNIT-Vという分類法が使われます。DAMNIT-Vとは疾患を変性性(D)、奇形性(A)、代謝性(M)腫瘍性または栄養性(N)、特発性・炎症性・免疫性・感染性(I)、外傷性・中毒性(T)、血管性(V)に分けて時間経過による症状の強弱から原因疾患を推定するという方法です。例えば腫瘍性であれば慢性進行性に症状が強くなるはずとか血管性(出血や梗塞)であれば急に症状が出て時間経過とともに収まってくるだろうという考え方ですね。
これらの考え方に神経学的検査を加えればMRI検査がなくてもある程度病気の場所や種類を想定可能だと伊藤先生はお話されていました。
確かにそうなんですが、神経学的検査によって大まかな場所はわかりますがなかなか細かな場所まではわからないことも多くありますし、結局はMRI検査をお願いすることになってしまいます。まあ地理的にMRI検査が比較的容易に受けられるというのも確かにあるとは思います。また、その後の治療(開頭手術や全耳道切除術など)の可能性も考えるとMRI設備があって神経専門医が在籍している施設にはじめからお願いするのも飼い主様のご希望によってはありではないかと思います。