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休診日 火曜日・祝日

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神経科

当院の神経科

神経科で代表的な病気の一部をご紹介します。

胸腰部椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアには、脊柱管側の(脊髄がある方の)線維輪が切れて内側にある髄核が脊髄側に突出して脊髄神経を圧迫するHansenⅠ型と、脊髄側の線維輪が変性・肥厚(厚くなったり)して脊髄神経を圧迫するHansenⅡ型があります。

HansenⅠ型はミニチュアダックスフンドやビーグル、コッカースパニエルなどの軟骨異栄養犬種が好発犬種となっています。軟骨異栄養犬種では、髄核の脱水や変性が1歳を超えた段階から生じるため極端に発症リスクが高く、若齢犬でもヘルニアが発症することがあります。また髄核の突出によりヘルニアが発症する為、その症状の発生は急性で突然の痛みやマヒが主な症状となります。
HansenⅡ型は椎間板背側(脊髄側)に肥厚突出した線維輪により発症するため、痛みを伴うこともある慢性進行性の不全麻痺が主な症状となります。

診断:脊髄反射などの神経学的な検査、レントゲン検査、MRI検査などが行われます。

椎間板ヘルニアの重症度評価と予後について

重症度 症状 適正治療による改善率
Grade1 疼痛のみ 内科治療でおよそ90%
外科治療で90%以上
Grade2 歩行可能な不全麻痺
Grade3 歩行不能な不全~全麻痺 内科治療でおよそ50%
外科治療でおよそ90%以上
Grade4 歩行不能な全麻痺あるいは自力排尿なし
Grade5 歩行不能な全麻痺、自力排尿なし、深部痛覚消失
a:麻痺がおこってから48時間以内
b:48時間以上経過
早急な診断と外科処置が必要
深部痛覚消失後
12時間以内でおよそ50%
24時間以内でおよそ40%
36時間以内でおよそ25%

以前からGrade5の椎間板ヘルニアでは、緊急の外科手術が推奨されていました。しかし近年の調査では、手術までの時間よりもMRI所見(T2強調画像での高信号像)の方が椎間板ヘルニアの治療成績に関わっていたと報告されています。

治療:治療には保存療法と外科療法があります。Grade3以上の椎間板ヘルニアでは保存療法での改善率が低下することから外科療法が選択されます。ほとんどの場合、術式は片側椎弓切除術(hemilaminectomy)が選択されます。

クリックすると手術の画像が表示されます
胸腰部椎間板ヘルニアの術中の画像です。
脊髄を矢印で示しました。脱出した椎間物質によって脊髄が障害されて一部変色しています(円で囲った部分)

頸部椎間板ヘルニア

好発部位

頸部椎間板障害の好発部位は、頭頚部の動きによる椎体への荷重の大きさ・不安定性に依存します。
小型犬では頭側頸椎(C2-3、C3-4)における発症が多く、大型犬では尾側頸椎(C5-6、C6-7)における発症が多くなっています。
ただし、HansenⅡ型椎間板ヘルニアでは、多くの椎間に椎間板突出を認めることもあります。

臨床症状

Grade1:頸部痛を示すが神経的異常を伴わない
Grade2:歩様異常あり。起立・歩行可能だが四肢のいずれかに神経学的異常がみられる。
Grade3:起立・歩行困難であり、四肢において神経学的異常が見られる。

診断

頸部椎間板ヘルニアでは、画像診断によりヘルニア罹患部位などを含めた確定的な診断を得ることが可能です。全ての症例で麻酔下での検査が必要とされ、現在ではコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像撮影(MRI)といった断層画像による診断が主流となっています。

治療
保存療法

保存療法で最も重要とされることは運動制限(ケージレスト)です。脊柱管内に脱出した変性髄核の安定には、3-4週間の完全なケージレストが必要とされています。この期間は症状の改善よりも悪化を防ぐことが重点とされています。その後、破綻した線維輪の修復に必要な6-8週間は軽度の運動のみ可能となっています。脱出した髄核の吸収、石灰化には6-8カ月の期間が必要とされるため、その期間はジャンプや上下運動などはできません。
保存療法による完全治癒率および再発率を調査した過去の報告では、保存療法に良好に反応し再発が認められなかった症例は48.9%、症状の再発がみられた症例が33%、保存療法の効果がみられなかった症例が18.1%であったとされています。

外科手術

脱出した椎間板物質や突出した線維輪の除去と椎間板によって圧迫された脊髄の減圧を目的として外科手術が行われます。
ほとんどの場合、腹側減圧術(ベントラルスロット)が行われますが、腹側減圧だけでは症状の改善が乏しい場合に片側椎弓切除や背側椎弓切除が行われます(稀)。
外科手術を行う基準
1:症状は疼痛のみだが、画像診断にて中程度~重度の脊髄圧迫がある場合
2:ケージレストによる管理が困難な場合
3:内服薬に反応するが、休薬により再発する場合
4:神経学的な異常(ふらつき・四肢の不全麻痺や完全麻痺)がある場合

クリックすると手術の画像が表示されます
ベントラルスロット法にて脱出した椎間板物質を除去した後
中央に見える白い部分が脊髄です。

てんかん(Epilepsy)

様々な原因により大脳神経細胞が異常興奮することで生じるてんかん発作を反復する疾患で、様々な臨床所見を伴うもの
24時間以上の間隔で少なくとも2回以上の非誘発性てんかん発作を起こす脳の病気
(つまり1回てんかん発作を起こしてもてんかんと診断されないということです)

誘発性発作(=反応性発作):Reactive Seizure

正常な脳が中毒や発熱、低血糖、肝機能障害、腎機能障害などにより一過性の機能障害に陥った場合におこる発作(つまり脳以外に原因がある発作ということ)。

てんかん発作(Epileptic Seizure)

脳の異常な電気的放電の結果として生じる突発性の定型的な運動、感覚、行動、情動、記憶あるいは意識の変化を伴うエピソード

少し脱線します。てんかんについては上で触れましたが、てんかんと発作と痙攣(けいれん)がごちゃごちゃになっている方がいるかもしれないので、発作と痙攣について触れておきます。
発作とは突然始まりすぐに終わる一過性のイベント(心原性脱力発作、てんかん発作、その他)のことで、痙攣とは随意筋(随意筋とは自分の意志で動かせる筋肉です。ちなみに自分の意志で動かせない筋肉を不随意筋と呼びます)の持続性あるいは反復性の収縮のことを指します。
つまり、随意筋の持続性あるいは反復性の収縮が突然始まりすぐに終わることを痙攣発作と言うということです。

てんかんの分類

特発性てんかん:Ideopathic Epilepsy

一般的に発作がみられないときには脳波検査以外には何も異常所見がありません。
ほとんどの場合、初発年齢は6か月~6歳です。

構造的てんかん:Structral Epilepsy

構造的てんかんとは、脳あるいは頭蓋内にてんかん発作の原因となるような器質的病変が存在ことによりてんかん発作を(24時間以上あけて2回以上)起こすてんかんで、その原因には脳腫瘍や脳炎、脳奇形(水頭症など)、脳血管障害、外傷、変性性疾患などがあります。
発作間欠期に脳神経異常がでることがあります。

全般発作にはけいれんを伴うものと伴わないものがあって、けいれんを伴う全般発作には全般強直間代性発作(突っ張ってバタバタする)、全般強直性発作(突っ張るだけ)、全般間代性発作(バタバタするだけ)、ミオクロニー発作(全身がビクッビクッとなる)があり、けいれんを伴わない全般発作には欠神発作(意識がなくなる)や脱力発作(全身の力が抜ける)があります。

診断

てんかんの診断とは、つまり特発性てんかんとそれ以外のてんかん(主に構造的てんかん)の鑑別になります。
(先にも示しましたが、非誘発性てんかん発作が24時間以上の間隔を空けて2回以上ないとてんかんと診断できません)

特発性てんかん=遺伝的要因以外にてんかん発作の原因が認められないか、調べても原因がわからないてんかんという定義があるので、遺伝的な要因以外にてんかん発作を起こす原因の有無について調べる除外診断をしていきます。
具体的には、動物のご家族への問診、動物の身体検査や神経学的検査、血液検査や尿検査が行われます(これらの検査は発作による影響を除外するために発作から数日経過してから行われます もちろん発作当日と数日後の2回行ってもいいと思います)。

特発性てんかんの診断基準

IVETFは特発性てんかんの診断を3つの信頼レベルに分けています。
信頼レベルⅠ(一般動物病院レベル)
信頼レベルⅡ(MRI診断装置を有する二次診療施設レベル)
信頼レベルⅢ(脳波検査ができる神経科専門医レベル)
IVETF(International Veterinary Epilepsy Task Force=国際獣医てんかん特別委員会)

レベルが上がれば、特発性てんかんの診断制度が上がっていきます。
そのレベル毎に、反応性発作や構造的てんかんを診断・除外していきます。
以下の項目すべてに合致する場合、信頼レベルⅠの特発性てんかんと診断されます。

24時間以上の間隔で少なくとも2回以上のてんかん発作がある(てんかんの定義です)
初めての発作の発症年齢が6か月以上6歳以下(犬)
(猫ではまだ決定されていませんが、6-7歳以下というのが有力)
発作間欠期に神経学的検査、血液検査、尿検査に異常がない
信頼レベルⅠに合致しているがより診断精度を上げたい場合や、診断レベルⅠで年齢が合わなかったり神経学的検査に異常がある場合などで信頼レベルⅡに進みます。

以下の検査でも異常がなければ、信頼レベルⅡの特発性てんかんと診断されます。
食前食後の総胆汁酸検査
脳のMRI検査
脳脊髄液検査

これらの検査を行うことで、構造的てんかん(と一部の反応性発作)の除外または診断ができます。

信頼レベルⅠおよびⅡをクリアして、さらに特発性てんかんの診断精度を高めたい場合には、信頼レベルⅢとして脳波検査が行われます。

治療

治療は抗てんかん薬を用いた内科治療により行われます。
治療の目的は、発作の頻度と重篤度を出来るだけ下げて動物のQOLを維持することにあります。治療によりてんかん発作が無くなることは通常ありません。
またてんかん発作を起こす動物のうち20~30%は抗てんかん薬を用いても良好なコントロールができず、難治性てんかんと呼ばれます。(逆に言えば70~80%の動物は抗てんかん薬治療により発作が良好にコントロールされます)
治療がうまくいっているかどうかの基準は発作頻度と重篤度が低下しているかどうかで判断されます。
通常、発作頻度が治療前に比較して半分以下になっていれば治療はうまくいっていると判断されます。
てんかんの動物のご家族には、てんかんによる痙攣が止まらない時に使ってもらうための緊急用抗痙攣薬をお渡ししています。1回使用量を注射器に入れたものを2本と鼻腔内投与のためのアタッチメントです。

前庭疾患

前庭疾患は、前庭系が障害された結果として特徴的な臨床症状を呈する症候群であり、原因としていくつかの疾患が考えられます。
臨床症状には、捻転斜頸、律動性眼振、運動失調(ふらつき、偏向、旋回、転倒、軸転)、嘔吐(船酔い車酔いなどの動揺病)などがあります。
これらの症状は脳幹や小脳、内耳、前庭神経どこかに発生した障害によって発生します。

前庭疾患は大きく2つに分類されます。
小脳や延髄などの脳に問題が起こって発症した前庭疾患を中枢性前庭疾患、小脳や延髄などの脳以外(つまり内耳や前庭神経)に問題が起こって発症した前庭疾患を末梢性前庭疾患と言います。

中枢性前庭疾患

髄膜脳炎や血管病変(脳梗塞など)、腫瘍などにより小脳や延髄に問題が起こった結果前庭疾患が発症します。通常なにかしらの脳神経障害とともに発症します。

末梢性前庭疾患

外耳道の細菌感染が内耳に波及して起こるタイプと、原因がわからない特発性前庭疾患があります。
内耳の細菌感染によって起こる前庭疾患では外耳炎がないこともあるので注意が必要です。

発症原因が特定できない前庭疾患を特発性前庭疾患と言います。
多くの前庭疾患は原因不明であることが多く、よってほとんどの場合が特発性前庭疾患となります。
特発性前庭疾患は特に老齢の犬に発症することが多く、老齢性前庭疾患とも言われています。

治療

原因疾患が分かっている場合は、原因疾患の治療を行います。
内耳の感染がある場合は、適切な抗生物質投与などの内科治療にあわせて外科治療が行われることもあります。
特発性前庭疾患では、発症するのが高齢の動物であることが多く、嘔吐や食欲不振に対する支持療法や対症療法が必要となります。

認知機能不全症候群(認知症)

認知機能不全症候群(以後認知症とします)すなわち痴呆症は、老化に関連した症候群であり、認知力の異常、刺激への反応低下、学習・記憶の欠損に至るものとされています。
発症年齢は一般に犬で9歳以上、猫で11歳以上であり、年齢が増すにつれて罹患率も増加します。どの品種にも発生しますが、日本国内では日本犬の発症が群を抜いています。過去の国内のおける認知症442例の調査では、51.2%が日本犬系雑種、29.6%が柴犬であり、他の日本犬も含めると83%が日本犬であったと報告されています。

診断

基本的にご家族から伺う症状から認知症を疑い、次に脳腫瘍や脳炎などの症状が似ている病気を鑑別することで診断します。現在、認知症の臨床症状を表現する方法として最も認知されているのがDISHAAと略される行動変化のカテゴリー表記です。DISHAAとは認知症でよく認められる徴候に関してその頭文字をとったものであり、Disorientation(見当識障害)、Scial Interactions(社会的交流の変化)、Sleep-wake cycles(睡眠サイクルの変化)、House soiling(トイレの失敗)、Activity(活動性の低下)、Anxiety(不安)の6つのカテゴリーに分かれています。

見当識障害:見当識とは、ここはどこで、この人は誰かなどの自分の周囲の状況などを総合的に判断して自分が今置かれている状況を理解する能力を指します。これらの理解能力が欠如することを見当識障害と言います。

治療

ヒトの認知症に根治的治療がないことと同様に、犬猫の認知症にも根治的な治療はありません。よって認知症の治療は、病態の進行を可能な限り遅くすることおよび動物とそのご家族の生活の質を維持・向上させることに向けられます。
以下に効果が期待できるいくつかの治療を挙げますが、それらは単独で行うものではなく、通常併用されます。
行動療法:今までに獲得しているしつけの復習や新しい遊びやトレーニングを始めるのも脳に刺激が加わって症状の改善が望めます。
食事療法:抗酸化物質やDHA、EPA、ω3脂肪酸などが含まれた食事が推奨されています。薬剤療法:ヒトのアルツハイマー病治療薬などが用いられます。