TEL 042-333-0009

時 間 午前9~12時、午後4~7時
休診日 火曜日・祝日

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循環器科

当院の循環器科について

動物の高齢化に伴い、人間と同様に心臓病が増えています。犬・猫が亡くなる原因として、心臓病は、腫瘍、腎臓病と共に「3大死因」の1つになっています。当院では、犬の僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症、猫の肥大型心筋症などについて検査・治療を行っております。

循環器分野で多い症状

  • 呼吸が早い、大きい
  • 呼吸が苦しそう
  • 変な呼吸の音がする
  • 鼻水が出る
  • 少し動くと座り込む倒れる
  • 舌の色がいつもより青い
循環器科の病気について

循環器の病気には動脈管開存症や大動脈弁狭窄症などのような先天的な病気や僧帽弁閉鎖不全症や心タンポナーデのような後天性の病気もあります。先天的な病気は仔犬期の健康診断やワクチン接種の時に判明することがありますが、後天的な病気の多くはご家族が症状に気づいて来院されるケースが多くなっています。循環器の病気には緊急性のある病気もありますので、普段から動物の健康状態に注意して特に呼吸と運動能力についていつもと違うところがあれば早めに連絡を頂くことをお勧めします。

循環器科の診断・検査

心臓病は初期の段階では症状が出にくいため、症状が出てきたときには、すでに病気が進行していたという事も多くありますので、病気の早期発見により進行させないことが非常に重要です。

心臓病は先天性と後天性があるため、犬・猫の年齢に関わらず発症します。
定期的な心臓の検査をお勧めしています。

循環器科の検査

検査名 検査の目的
身体検査 視診や触診、聴診により全身状態と心臓の血行動態に異常がないか調べます。心雑音の聴取される場所とその種類によっていくつかの心臓病を疑います。
胸部レントゲン検査 心臓の形や大きさ、主要血管の走行、肺の状態などについて評価を行います。
超音波検査 主に心臓の評価に用いられます。心房や心室の大きさ、心筋壁の厚み、異常構造の有無、血流速度などについて評価します。心臓周囲の評価や肺の評価にも用いられます。
血液検査 心臓バイオマーカー(NTproBNP、NTproANP、cTnI)の測定により心筋負荷の有無を判定します。また肝臓や腎臓、脱水状態の把握などを目的に行われます。治療に利尿剤を用いる時は腎数値のチェックは必須です。
心電図検査 不整脈の有無やその分類について調べます。
血圧測定 血圧は体の調節機構によって常にある程度一定に保たれています。調節機構による調節によっても血圧が維持できなくなると高血圧や低血圧になります。

代表的な循環器科の病気

循環器科で代表的な病気の一部をご紹介します。

僧帽弁閉鎖不全症

心臓は左心房、左心室、右心房、右心室の四つの部屋に分かれ、全身に血液を送り出すポンプの役目をしています。全身の静脈から帰ってきた血液は、右心房から右心室、肺へ循環し、肺で酸素を取り込んだ後、左心房、左心室、大動脈を通って全身に送り出されます。心臓には血液の逆流を防ぐための弁が四つあり、その一つが左心房と左心室の間にある僧帽弁です。
僧帽弁閉鎖不全症は、左心室から大動脈を通って全身へ送られる血液の一部が大動脈に向かわずに後方(左心房)に逆流する病気です。

症状

疲れやすい、動きたがらない、咳が出る、呼吸が早い/大きいなどの症状が出ます。僧帽弁閉鎖不全症から肺水腫という状態になると、横になって眠らない上を向いて呼吸をするなどの症状が出ることがあります。

診断

胸部レントゲン検査、心臓超音波検査などにより診断します。
2019年に米国獣医内科学会(ACVIM)は僧帽弁閉鎖不全症の病態をStageA、B1、B2、C、Dの5段階に分類し、それぞれのStageにおける推奨される治療法についてのガイドラインを発表しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.15488

ACVIMの僧帽弁閉鎖不全症の分類(2019)
StageA 心臓に構造的異常がなく、心疾患の進行に関して高い危険性がある
StageB 心臓に構造的異常(心雑音)があるが、心不全徴候は認められない
B-1 左心拡大が認められない
B-2 左心房および左心室の拡大が認められる
聴診で心雑音≧Levine3/6以上、心臓超音波検査でLA/Ao比≧1.6、LVIDDN≧1.7、胸部レントゲン検査でVHS>10.5の全ての条件が揃う
or 胸部レントゲン検査でVHS≧11.5
or 心臓超音波検査か胸部レントゲン検査で経時的な心拡大が確認される
StageC 心臓に構造的異常があり、心不全徴候(肺水腫)が現在あるか既往がある
入院治療を必要とする急性心不全、在宅治療が可能な慢性心不全
StageD 標準的な治療に対して難治性を示し、末期の心不全徴候を有する
入院治療を必要とする急性心不全、在宅治療が可能な慢性心不全

※VHS(Vertebral Heart Size):胸椎と比較することで心臓サイズを測定する方法

当院では、聴診による心雑音の分類、レントゲン検査所見、超音波検査所見をACVIMのガイドラインに当てはめるだけでなく、左房から左室への血液流入波形(E波、a波)、左室から左房への逆流波形などを元に総合的に心臓の状態を把握するようにしています。


カラードップラー法で血流の観察をしています。
左心室から左心房への僧帽弁逆流だけでなく、右心室から右心房への弱い三尖弁逆流も観察されています。(緑)


左心室から左心房に血液が逆流(緑)しています。
正常な左心房の大きさのワンちゃんの心臓超音波検査画像です。


左心房から左心室への逆流速度を連続波ドップラー法で測定しています。
逆流の波形が左右対称になっていません。このような波形をダガーシェイプと言って左心房内圧上昇を疑う所見です。

正常な左心房の大きさのワンちゃんの心臓超音波検査画像です。

大動脈の内径は動物の状態によって変化することがほとんどないので、大動脈の内径を体内のものさしのようにして左心房がどのくらいの大きさになっているのかを調べます。
左心房の大きさは大動脈内径の1.39倍でした。

重度に左心房が拡張しているワンちゃんの心臓超音波検査画像です。

大動脈が小さくなっているように見えますが、大動脈内径は動物の状態によって変化することはほとんどありません。よってこのワンちゃんは左心房が重度に拡大してしまっていることが分かります。
左心房の大きさは大動脈内径の5.83倍でした。

治療

内科治療と外科治療があります。内科治療では症状を軽くして普段の生活が無理なく送れるようにすることが目標となります。内科治療によっても症状は徐々に進行し、ほとんどの場合いつか内科治療では症状を抑えることができなくなります。外科治療では僧帽弁形成術によって根治が望めますが、僧帽弁形成術を行える施設は多くありません。外科治療のご希望があれば手術可能な施設を紹介いたします。

犬の拡張型心筋症

拡張型心筋症は、犬では僧帽弁閉鎖不全症の次に多く見られる後天性心疾患であり、大型犬に多く見られます。

症状

呼吸困難、運動負耐、失神などの症状が見られます。

診断

心電図検査では不整脈が検出されることが多く、レントゲン検査では心拡大、肺水腫、胸水や腹水貯留が多く認められます。拡張型心筋症の診断において、もっとも有用なのは心臓超音波検査です。心筋の収縮性の低下と心拡大が特徴的な所見で、これらの異常は左心室において顕著に認められます。

治療

主に利尿剤や強心薬などによる内科治療が行われます。不整脈については抗不整脈薬が用いられます。

猫の肥大型心筋症

猫の心筋症には、肥大型心筋症・拘束型心筋症・分類不能型心筋症などがあります。
一番多く見られる肥大型心筋症は心室の拡張機能が障害される心筋症で、心筋壁の肥厚が特徴的です。

初期の症状は分かりにくく、動脈血栓塞栓症や肺水腫などの致死的な病態に進行して初めて分かることも少なくありません。開口呼吸、呼吸困難、チアノーゼ(舌がいつもより紫になっている)などの明らかな心不全徴候を示している猫は、非常に重篤な状態であると考えられるので、すみやかな救急治療が必要になります。

診断

肥大型心筋症の診断には心臓超音波検査が必須です。一般的には猫の心臓の心室壁が6mm 以上になると肥大型心筋症と診断されます。ただし、甲状腺機能亢進症や高血圧、脱水、頻脈などでは心筋壁が厚くなるので注意が必要です。他にも全身状態の把握のために血液検査やレントゲン検査が行われます。
心臓超音波検査では、心筋の壁厚の測定以外に左心房の拡張程度の測定や血栓、もやもやエコー所見の有無について調べます。

ちょっと脱線しますね
もやもやエコーってふざけてるの?と思われるかもしれませんが、広く認知されているれっきとした心臓超音波画像所見です。もやもやエコー(smoke-like echo, spontaneous echo contrast)とは、赤血球の凝集を反映する心臓超音波画像所見で,血栓形成傾向を示唆するとされていて、これが左心房内での血栓形成と動脈血栓塞栓症発症に関連していることが知られています。

治療

うっ血性心不全徴候や肺水腫などの症状があれば、病態にあった適切な治療に加えて抗血栓療法が行われます。無症状であっても、左心房が拡張している場合や血栓あるいはもやもやエコーが確認された場合には抗血栓療法が行われます。

猫の動脈血栓塞栓症

猫の動脈血栓塞栓症とは、肥大型心筋症や拘束型心筋症などにより心臓内で形成された血栓が血流によって動脈に塞栓する病態です。心臓で形成された血栓は全身のあらゆる場所に塞栓しますが、そのほとんどは腹大動脈の分岐部に塞栓し後肢の急激な麻痺と激しい疼痛を症状として表します。動脈血栓塞栓症の血栓形成には左心房拡大による血流のうっ滞が関わっていると言われていますので、血栓塞栓症状が出ている猫に左心房拡大やもやもやエコーが見られた場合には、動脈血栓塞栓症を強く疑います。


動脈血栓塞栓症の猫ちゃんの心臓超音波検査が画像です。
左心房内に煙がたなびくような「もやもやエコー」が見えています。

治療

動脈血栓塞栓症の急性期の治療は、疼痛管理、心不全の管理、さらなる血栓形成の抑制になります。積極的な血栓溶解療法や外科的な治療が行われていますが、良好な治療成績は報告されていません。

動脈血栓塞栓症は致死率が高い病気で、海外では診断がされた時点でほとんどの猫が安楽死されています。血栓の大きさなどの様々な要因はありますが、生存率の低い危険な病気です。しかし、動脈血栓塞栓症の発症原因は心筋症などの基礎疾患であることが多いので、発症する前に心筋症を診断して発症予防治療を行っておくことが重要と思われます。